宮沢賢治(短編集)の世界 その2

 

今年は残暑が厳しい毎日が続いていましたが、
徐々に秋らしくなり、読書には旬の季節です。
ぜひ「読書の秋」を楽しみたいものですよね。

 

 

さて今回も引き続き、宮沢賢治の作品から、2作をご案内いたします。
「注文の多い料理店」と「どんぐりと山猫」です。

 

両作品とも1924年に自費出版同様に発行された、
「注文の多い料理店」に収録されたものとなります。
「イーハトヴ童話」というサブタイトルがつけられた同書は、
賢治の生前に出版された、ただひとつの短編集です。

 

ところで、このイーハトーブ(イーハトヴ)という言葉、
初めて耳にされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

イーハトーブとは、賢治の心に浮かんだ世界の中にある、ユートピアを示す言葉で、
「いはて」(岩手)をヒントとされた造語だという見解もあるようです。
宮沢賢治の描いたイーハトーブ、皆さんもぜひ感じ取ってみてくださいね。

 

 

注文の多い料理店

 

---

 

山奥に猟に出かけた英国風のお洒落をした青年紳士2人は、
その日、獲物を1匹も捕れずにいました。

 

山の空気は恐ろしさを増し、案内人とははぐれ、
連れていた猟犬2匹は山のあまりの恐ろしさに死んでしまいますが、
紳士2人は悲しむこともなく、金銭的損失を嘆くのみ…。

 

 

そんな彼らもやがて異様な山奥の雰囲気に気付きます。
しかし山の中では大変強い風が吹き木々も騒ぎ、帰ることもままなりません。
疲労と空腹に弱り果てた頃、彼らは一軒の西洋料理店を見つけました。

 

「山猫軒」と書かれたそのレストランは、とても風変わりな料理店、
「どなたもどうかお入りください」と記された扉を開くと、
「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはごしょうちください。」という文字があります。

 

次々と現れる扉と奇妙な注文、
やがて紳士たちは料理が出されてくるわけではなく、
自分達が料理として出されるのだと言うことに気づきますが…?

 

---

 

 

さて、こちらの「注文の多い料理店」ですが、実際に読まれたことのない方でも、
なんとなく全体のあらすじをご存知の方もいらっしゃると思います。
美味しい食事を食べられると思って入ったレストラン、
実は食事となるのは自分達だった…、というストーリーですよね。

 

 

主人公は英国風に身なりを装い、一見洗練された紳士のように見えますが、
失われた犬たちの命を金銭的な損失としか考えられないような、冷淡でさもしい心の持ち主です。

 

これは、山猫軒を自然界として考えたとき、

  • 奇妙な注文の数々=自然界の警告
  • 奇妙な注文を不思議に思わない紳士たち=自然界の警告を自分の都合に合わせて良い方に取る人間たち、

とも考えられています。

 

ラストは食べられる寸前で主人公たちは、「ある者」によって助け出されるわけですが、
「注文の多い料理店」は、自然に対して甘えすぎている不遜な人間たちと、
冷たくひどい扱いを受けたとしてもそれを受け止めて助けてくれる自然を表現している、
という解釈もあるそうです。

 

 

…とはいえ、読み進めていくにつれ、
どんどんドキドキが増えていくような、こんなに楽しいお話を難しく考えるのは、
読まれるお子さんたちが、もう少し大人になってからでもいいですよね。

 

風の鳴る音、木々のざわめく声、リズム感溢れる文章、
どれもがこの作品を美味しくしてくれているスパイスだと思います。
宮沢賢治料理長が作る「注文の多い料理店」、
お子さんたちには、まずは美味しく楽しく味わってもらいたいです!

 

 

どんぐりと山猫

 

---

 

山猫や栗の木や滝、きのこやリスたちと会話のできる一郎は、
思いやりのある賢く逞しい男の子。
そんな一郎に、ある土曜の夕方、山猫裁判長から不思議なハガキが届きます。
どうやら次の日に面倒な裁判がある様子で、ぜひ一郎にも裁判に来てほしいという内容でした。

 

 

次の日一郎は誰にも秘密に、山へと入ります。
一郎が出会ったのは裁判長である山猫に媚びる一風変わった格好の馬車別当、
見た目は立派ですが、体裁ばかりを気にする山猫、
また「自分が一番」と主張するどんぐりたち。

 

3日かかっても解決できなかったという案件を、
一郎が鮮やかな知恵を山猫に授けたことにより、
どんぐりたちの争いはあっという間に解決してしまいます。

 

山猫はいたく感動し、一郎に名誉を授け、その上出頭すべしという言葉で支配下に置こうとしますが、
一郎はそれを謙虚な気持ちで丁重に断ると、山猫は途端に冷めた態度になりました。

 

 

塩鮭の頭と黄金(きん)のどんぐりのうち黄金のどんぐりをお礼として選んだ一郎でしたが、
家に帰ると黄金は普通の茶色に戻り、山猫からはもう2度と手紙は届かなくなったのでした。

 

---

 

 

地域によっては小学校6年生の教科書にも掲載されているという、
ユーモアたっぷりに描かれた「どんぐりと山猫」です。

 

「どんぐりと山猫」に出てくる

  • 山猫は才能のない指導者、
  • 馬車別当は上司のご機嫌を取ることしかできない管理者、
  • どんぐりは庶民、

だと考えられています。

 

一郎の言葉の真理を理解できたのは民衆だけ、
一番しっかりしているのは謙虚でいた一郎だった、という、風刺も含まれた解釈のようです。

 

 

また同時に一郎の成長物語としても読まれています。

 

もしも山猫の提示した名誉に誘惑されてしまえば、一郎は馬車別当のような人物に、
また人間くさく黄金のどんぐりを選んでいなかったとしたら、森の獣にされていたかもしれません。
山猫からの手紙が永遠に届かなくなってしまったのは、
それまでは動物たちや自然界と会話の出来た一郎が、
山猫たちの住む世界とは違う、「人間」として成長したからだ、ということなのですね。

 

一郎という子供目線で描かれたお話に、
小さなお子さんでも吸い込まれるように夢中になってしまう、という感想も見かけました。
文庫という形でも出版されていますが、山猫の威厳のある様子や、
賑やかなどんぐりたちを楽しむには、絵本がオススメなのかもしれません。

 

 

賢治を読むにあたって

 

---

 

「これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、
 十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
 ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。」

 

この一文は、『注文の多い料理店』の序から抜き出した一文です。
文の中で、賢治は感じたままを作品に書いたまでだと言っています。

 

 

ここからは個人的な意見ですが、この一文を読むと、

 

 「賢治はこう言いたかったのだ」、
 「いやこう風刺しているのだ」、

 

と後から考えるのは、ほんのすこしナンセンスな気持ちもします。

 

童話全般に言えることですが、読んだ人が感じ取ったこと、
教訓だったり、物語の楽しさだったり、人それぞれかもしれませんが…、
その感じ取ったことすべてが間違いではないのでは?、と思うのです。

 

 

また、賢治は、

 

「わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、
 あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」

 

とも記しています。

 

「子供たちに、心の栄養となるような物語を描きたい」

 

これが賢治の童話を生み出すきっかけになった、強い気持ちだったのかもしれません。
賢治が届けようとしてくれた心の栄養、
子供たちの心にも、大人たちの心にも、たくさん蓄えてもらいたいな、と感じます。

 

 

次回は…

 

次回の配信は、来月上旬を予定しています。
次回は、宮沢賢治の作品紹介の最終回です。
どうぞよろしくお願いいたします。

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

今回の本
絵本
注文の多い料理店 (ミキハウスの絵本)
どんぐりと山猫 (ミキハウスの絵本)

 

文庫本
注文の多い料理店、どんぐりと山猫、他20編
読んでおきたいベスト集! 宮沢賢治 (宝島社文庫)

 

関連する本
宮沢賢治全集セット(ちくま文庫)
宮沢賢治全集10冊セット

 


 


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