宮沢賢治(短編集)の世界

 

「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」のフレーズや、
「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」でも有名な宮沢賢治。

 

今夏には、「グスコーブドリの伝記」がアニメ映画化されました。

 

宮沢賢治の作品は一見抽象的で、お子さんには、
なかなか手に取りづらい本のようにも思いますが、
大人だけでなく、お子さんにも楽しんで頂ける短編も、
たくさん存在します。

 

少し皮肉っぽいような、でも根底には温もりを感じさせてくれる
宮沢賢治の作品。

 

今回は、その中から、ほんの少しではありますが、
3つの作品を、ご紹介させて頂きます。

 

 

カイロ団長

 

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毎日毎日、虫仲間から頼まれた仕事を、
30匹のアマガエルたちは楽しく面白くこなして生活していました。

 

ところがある日偶然立ち寄ったトノサマガエルの店で、
アマガエルたちは「舶来ウェスキイ」というものに出会い、
あまりのおいしさに我を忘れてたくさん飲んでしまいます。

 

大酒を飲みすぎて代金を払えなくなったアマガエルたちは、
脅されて、トノサマガエルの家来になり、
「カイロ団」という、トノサマガエルを団長とした組織の一員に
なるのですが…。

 

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ワナにかけられ厳しい命令を下された、
弱者の悲哀が描かれている作品です。

 

現実世界でいう経営者と労働者の関係を、
カエルを通して表現している、とも捉えられています。

 

 

とはいえ悲壮なだけの作品にならないのは、
アマガエルの人(カエル?)のよさ、楽観的さ、
どこかユーモラスにも感じるコミカルな表現方法にもあります。

 

簡潔に言ってしまうと、因果応報、
「その人の立場になって考えてから行動しよう」、
ということを教えてくれるような作品に感じますが、
決してお説教くさくも押し付けがましくもない、
ほっとするエンディングです。

 

 

やまなし

 

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「二枚の青い幻燈」と名前をつけ、川底で生きる
蟹の兄弟の目を通して、谷川での景色、出来事を描いた作品です。

 

春も終わりの5月にはかわせみに襲われる魚のお話、
12月には成長した兄弟とやまなしの実についての、
二部構成となっています。

 

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地域によっては、小学校6年生の国語の教科書にも
掲載されている作品です。

 

 『クラムボンはわらったよ。』
 『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』

 

この兄弟蟹たちの不思議な言葉を覚えている、
お父さん、お母さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

 

子供の頃には「クラムボン」て何?
ということばかりが気になってしまいましたが、

 

大人になってから読み返してみると、
宮沢賢治の自然に対する描写力、文章の美しさ、
言葉の持つ独特のリズム感に感動させられました。

 

 

かわせみのくちばしがコンパスのように黒く尖っている様子も、
黒い円い大きなやまなしが、天井から落ちて沈んで、
再び上っていく様子も、人間ではない、川底に住む小さな
カニたちならではの感覚、表現ですよね。

 

小さなお子さんたちには、ぜひカニの兄弟になった気分で、
ストーリーを感じ取ってもらいたいと思います。

 

 

セロ弾きのゴーシュ

 

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「金星音楽団」という、町の活動写真館の楽団で、
セロ(現代でいうチェロ)を担当するゴーシュは、
余り上手な楽団員ではありません。

 

いつも楽長にひどく怒られていたゴーシュは、
まもなくやってくる音楽会のために、
自宅にセロを持ち帰って練習することにしました。

 

 

そんな彼の元に、三毛猫やカッコウ、子狸や野ねずみの親子たちが、
毎晩のように訪れ、ゴーシュにセロを弾くように懇願します。

 

最初はめんどくさがっていたゴーシュでしたが、
やがてせがまれるままにセロを弾くようになるのです。

 

 

そして数日後の音楽会での演奏を無事終え、ほっとするのも
つかの間、楽長はアンコールの1曲をゴーシュに頼みます。

 

馬鹿にされたと感じて怒りながらも、
そして動物たちを思い出しながら夢中で弾き終えた1曲は、
楽長にも、楽団の仲間たちにも大絶賛を受けるのでした。

 

---

 

 

主人公のゴーシュは少し乱暴なところもあり、
初めは楽長に怒られたストレスを発散するかのように、
動物たちに向けて音楽を奏でるなど、
意地の悪い部分もちらりと見えます。

 

ですが徐々に動物たちとの交流を深めるうちに、
小さなものをいつくしむ心や優しさがゴーシュの中に生まれ、
同時に本当の音楽というものを知っていくという、
(短編ですが)成長物語としても読み取れます。

 

 

宮沢賢治の作品の中では「すっきりと解りやすい」
部類のストーリーですし、
個性豊かな動物たちが出てくるのも、お子さんの興味を
ひきやすいですよね。

 

ぜひ親子で楽しんでいただきたい一編です。

 

 

鮮やかな、そして温かい物語

 

今でこそ子供から大人まで知っている宮沢賢治ですが、
生前の彼は、ほぼ無名に近い作家だったそうです。

 

賢治が亡くなった後に、草野心平らが力を尽くし、
そのおかげで賢治が紡ぎだしたたくさんの作品たちが
世の中に広まり、やがて、「日本を代表する作家」と、
呼ばれていくことになりました。

 

 

賢治の書く作品に出てくる自然は、とても鮮やかで、美しいです。
まるで私たちとは違う世界をその瞳で捉えてるかのように、
キラキラとまぶしく美しい自然を作中から読み取ることが出来ます。

 

 

でも思い返してみると、私たちだって子供の頃は、
すべてのものがキラキラして見えませんでしたか?
空も、海も、花も、雑草さえも。

 

・・そう考えてみると、もしかしたら賢治は、大人になっても、
子供のような心を持ち続けていたのかもしれませんね。

 

東北に生まれ、自身は裕福な家に育つも、
いつも農民のことを考えていた宮沢賢治。
そんな彼だからこそ、生み出すことの出来た作品たちです。

 

 

小さなお子さんには絵本で、少し大きなお子さんには文庫本などで、
ぜひ宮沢賢治の美しい、豊かな世界に触れさせてあげてください。

 

 

次回は…

 

次回の配信は、今月末を予定しています。
内容は、未定ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

今回の本
絵本
カイロ団長 洞熊学校を卒業した三人 (ますむら版宮沢賢治童話集)
やまなし (ミキハウスの絵本)
セロひきのゴーシュ (大人になっても忘れたくない いもとようこ名作絵本)

 

文庫本
カイロ団長・セロ弾きのゴーシュほか全14編
新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)
やまなし、セロ弾きのゴーシュほか全10編
宮沢賢治童話集 (ハルキ文庫)

 

関連する本
宮沢賢治全集セット(ちくま文庫)
宮沢賢治全集10冊セット

 


 


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