宮沢賢治の世界 3

 

10月も半ばを過ぎ、朝夕だいぶ冷え込んで参りました。

 

過ごしやすくなって油断してしまったために、
久しぶりに寝込むような風邪を引いてしまいました…。
皆さんもご自愛ください。

 

 

さて、宮沢賢治作品のご紹介も3回目に入ります。
今回のふたつは、夜空の星々に関わるお話です。

 

作品をご存知の方も、まだご存じない方も、
賢治の紡ぐ幻想的なストーリーに、しばしお付き合いください。

 

 

よだかの星

 

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よだかは醜い容姿の不恰好な鳥でした。
美しい姿を持つはちすずめやかわせみの兄だと言うのにそんな様子でしたから、
他の鳥たちには嫌悪され、鷹には、
「同じたかの名前を使うな」と無理難題を押し付けられたりもしていました。

 

よだかは優しい心を持つ鳥でもありました。
自分が生きるということは、多くの虫を食べ、
それが彼らの命を奪っていることだと言うことに、とても悩み、自分を嫌いました。
そして生きるということに苦悩し、その権利を手放そうと決意します。

 

よだかは太陽に向かって飛びました。
焼け死んだとしても構わない、どうかあなたのそばに行かせて欲しい、と願ったのです。
ですが太陽には、お前は夜の鳥なのだから星に頼みなさい、
と無下に断られてしまいます。
それなら星たちに、と思ったよだかでしたが、星たちにも見向きもされません。

 

 

自分の居場所を見つけられないよだかは、命の限り夜の空を飛び続けます。
やがてよだかは自分も気付かぬうちに、青白く燃え上がる「よだかの星」となっていました。
そして「よだかの星」は、今でも空で輝き続けています。

 

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『よだかの星』は、賢治が亡くなった次の年に発表された短編小説です。
以前は国語の教科書にも掲載されていました。

 

小学生を中心とした子供向けの解釈としては、

  • 「弱いものに対するいじめをやめよう」
  • 「見た目への差別をやめよう」

などを示唆していると、考えられています。

 

 

さらにもう一歩踏み込んで考えてみると、
「自分の存在が多くの虫たちの命を奪っていることへの嫌悪感」の為に、
体を燃やすことで星へと生まれ変わったよだかの姿は賢治が生きている間悩み続けた、
「自分が裕福な立場に生まれてしまったことに対する罪悪感」を表現している、
そして賢治の抱いていた仏教思想を映し出した作品とも言えます。

 

人や動物が生きるためには、他の弱い動物や生物を口にします。
その弱い生物たちも、彼らよりもっと弱い生物を口にしますよね。
いわゆる食物連鎖です。
誰かの命の上に成り立っている私たちの命、
これは世の中の全ての生き物たちに共通する業で、
どうしたらこの悲しみを克服できるのか、賢治はずっと考えていたようです。

 

 

作品の中にはこの業に立ち向かうよだかの姿が描かれています。
自分の業も断ち切り、いずれ自分を食べ業を背負う生き物の罪をもひとつ解放しよう、
そう決心して、よだかは空に向かって飛んだのかもしれません。

 

もちろん実際の私たちはこのように優しく強い鳥にはなれず、
今日も誰かの命の上に生かされていますし、それが生きていくことだと思います。

 

時々忘れてしまいがちな、「自分が生きている」ということ。
世の中全ての命の大切さ、重さ、尊さ、素晴らしさ、そして愛しさ。
最近のいじめ問題を考える上でも、大人にも子供にも、
一度は読んでもらいたい作品です。

 

 

銀河鉄道の夜

 

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貧しい生活を送る孤独な主人公、ジョバンニは、
病に倒れている母親との生活のため、働きながら学校に通っている少年です。
日々生きていくことに精一杯なため、
親友カムパネルラとの関係も疎遠になってしまっています。

 

しかし、夏の夜に行なわれるケンタウルス祭の日、
2人は宇宙を走る銀河鉄道に乗り、美しい星々を巡る旅に出ることになりました。

 

乗り合わせたどこか影のある乗客たちは一体?
銀河鉄道のたどり着く先は?

 

ジョバンニとカムパネルラの2人を乗せた銀河鉄道はすべての謎を抱え込んだまま、
橙色や青白く光る星たちを越えて走り続けます…。

 

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「銀河鉄道の夜」は、賢治の代表作のひとつとしても、余りに有名ですよね。

 

1924年前後に初稿が書かれ、賢治が亡くなる1931年辺りまで
何度も推敲を重ねられていましたが、
1933年に賢治が亡くなった為に未完の名作とも呼ばれています。

 

 

完成された作品ではなかったため、作品を読みやすく手直しする際に、
長い間研究者たちは苦慮したそうですが、
1974年に発行された筑摩書房版宮沢賢治全集の編集時に、
第1次稿から始まり第4次稿まで、原稿を大きく書き直したことがわかりました。

 

そしてその4つの原稿の中で私たちが現在目にしている作品は、
第4次稿が主流と言われています。

 

 

「銀河鉄道の夜」は何度もアニメや映画化があったり、舞台化もされていますので、
少しお子さんには読みにくいかな、と思われた場合は、
先にアニメなどから入るようにすすめてあげるのもおすすめです。

 

作品を読み終えた後は、お子さんがどんな風に感じたのか、
何が印象に残ったのかを言葉にしてもらうのもいいかもしれませんが、
文章から伝わってきた風景を、絵で表現してもらうのも、
豊かな感性や、想像力を培うことに繋がりそうです。

 

 

ところで、作中で登場する、
「けれどもほんたうのさいはひは一體何だらう。」
この言葉は、作品のテーマでもあります。

 

また賢治から私たちに向けての、大きな問いかけのような気がします。

 

「ほんたうのさいはひ」とは一体何か。

 

それは「よだかの星」同様、作中にちりばめられている自己犠牲の精神だったり、
誰かを思う優しい心だったり、
生に対する無限大の可能性や、まぶしさだったり…。

 

 

だけどもしかしたら皆さんの心に浮かぶものは、
賢治が思う「ほんたうのさいはひ」とは違う答えかもしれません。

 

答えは、きっとひとりひとりの心の中にあるのでしょう。

 

そしてその答えを探す時間こそが、
私たちが銀河鉄道に乗っての旅をするという事なのではないのかと、
感じてやまないのです…。

 

 

秋の夜長に…

 

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宮沢賢治の作品の多くは短編です。

 

いくつかご紹介した中にもありましたが、
動物たちが登場するお話もたくさんあり、
小さなお子さんには親しみを感じてもらえそうです。

 

夜が長くなってくるこの季節には、
ぜひお休み前のお供に読んであげてください。

 

 

また夜空を見上げ星を見つけて、
賢治の作品を思い出してみるのもいいかもしれませんね。

 

「銀河鉄道の夜」に出てくるさそり座やケンタウルス(いて)座は夏の星座ですが、
「よだかの星」は、一般的には冬の星座と呼ばれるカシオペア座に現れた、
「チコの星」とも言われています。

 

 

次回は…

 

次回の配信は、来月上旬を予定しています。
内容は、未定です。

 

最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

今回の本
絵本
よだかの星 (ミキハウスの宮沢賢治の絵本)
銀河鉄道の夜 (宮沢賢治童話傑作選)

 

文庫本
よだかの星、銀河鉄道の夜、他20編
読んでおきたいベスト集! 宮沢賢治 (宝島社文庫)

 

関連する本
宮沢賢治全集セット(ちくま文庫)
宮沢賢治全集10冊セット

 


 


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